先日ESOMAR (ヨーロッパ世論・市場調査協会)がインサイト&リサーチのユーザー及び発注者640名を対象に行った顧客調査の結果を「リサーチユーザー及び発注者のグローバル・インサイト研究2020(以下「本レポート」)」として発表しました。

本レポート(日本語)の詳細は、JMRA(一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会)のウェブサイトで確認できるので、ぜひご興味のある方はコチラよりご確認ください。

より多くの調査が社内で内製化される流れにある中(レポート内では1-2年以内に全プロジェクトの50%に達すると予想)、外部委託の割合が72%と多い日本。

今回のブログでは、本レポートの要点を考慮し、アンケートプラットフォームを構築し、調査プロジェクトの内製化を支援するシステム会社の立場で、「調査プロジェクトを内製化するポイント」について考察していきたいと思います。

内製化しやすいプロセスから優先的に内製化し、徐々に拡張していく

まず初めに「調査プロジェクトの内製化」といっても、最初から全てを内製化するのではなく、調査のどのプロセスが内製化しやすいのか?と優先順位をつけて考えるのが重要です。通常の場合、調査プロジェクトのプロセスというと、調査の企画から設計、実際のデータ収集から、集計、分析、可視化、共有、活用まで多岐に渡ります。どのプロセスが内製化しやすいかは、クライアント側の体制やニーズによって異なりますが、どの部分から始めたとしても、将来的には内製化する範囲を広げることができる拡張性が大事です。例えば、弊社が提供するグローバルアンケートプラットフォーム(Syno Cloud)は、調査プロジェクトのプロセスを①収集、②連携、③一元管理、④レポ―ティング、⑤活用と5つの段階に分けて、各プロセスを効率的に内製化するためのプロダクトやシステム開発を組みあわせ、クライアント独自のプラットフォームを構築していきます。具体的には、データ収集から集計までのプロセスをSynoToolでデジタル化し、自社のファンコミュニティをSyno Panelを活用しアンケートパネル化することで、顧客アンケートの継続的なアンケートを内製化し、ある程度データが蓄積された後に、分析、可視化、共有の部分をSyno BIのカスタマイズダッシュボードで効率化したり、全てのデータをSyno Library上で統合し、外部システムに連携します。最初から全てのプロセスを内製化するのではなく、単一プラットフォームで順次拡張していき、社内の内製化シェアを効率的に拡大することができます。

内製化しにくい部分は、部分的な外部委託を組み合わせる

調査プロジェクトの内製化を進めていく一方、社内の環境や体制によっては「内製化しにくい、かつシステムで効率化できない部分」が存在する場合がよくあります。その際に無理やり内製化を考えるのではなく、部分的に外部委託するという選択肢を検討してみてはいかがでしょうか?例えば、オンラインアンケートの画面作成の部分だけ、社内でプログラミングするスキルを持っている人がいない、かつ回答者が答えやすいカスタマイズ画面を構築したいので、その部分だけ外部のエンジニアに委託したいという場合が考えられます。弊社が提供するサービス&サポートでは、システムでカバーできない部分を補うため、「人」による付加価値サービスを国内のカスタマーサクセスチーム及びベトナムハノイのオペレーション&開発チームより提供し、調査プロジェクトの部分的な外部委託のニーズにお応えしています。但し、重要な点としては調査プロジェクトの全体を丸々っと外部委託するのではなく、内製化しにくい部分のみを特定し部分委託することで、本レポートでも言及されている「顧客の社内チームが、増加するプロジェクトに安全・容易に対応できるプラットフォームやサービス体制を構築する。」という目的を達成することができます。

内製化が求められる、あるいはしやすい調査タイプを考える

調査プロジェクトを内製化するための三つ目のポイントとしては、社内のさまざまな調査プロジェクトを見直し、内製化が求められる、あるいはしやすい調査タイプを特定し、そこから優先的に始めるという点です。では内製化が求められる、あるいはしやすい調査とは一体どういったタイプの調査でしょうか?

  • 予算を安価に抑えたいシンプルな調査:本レポートでも指摘されているように、近年クライアント側の調査ニーズは、最先端の技術(チャットボットなど)を使用した調査ではなく、シンプルな調査にシフトしています。複雑で大型な調査ではなく、シンプルな調査ほど内製化がしやすく、その必要性が高いと考えます。なぜならシンプルな調査はDIY型のシステムを使用して社内でフローを構築しやすく、かつシンプルな調査ほど調査予算は限られているからです。内製化により外部委託コストを削減し、自社で回しやすいのがシンプルな調査というわけです。
  • 個人情報を扱う調査:近年の個人情報保護規制の強化を背景に、特に個人を特定できる情報を扱う調査プロジェクトはなるべく外部委託せずに、自社でコントロールすることができるセキュリティが担保された環境で、該当する個人情報保護規制に正しく準拠し、データを提供する側のプライバシーを考慮した、データ収集を内製化する仕組みが求められています。
  • 継続的な調査:時系列で消費者の傾向や購買意向、認知度などを定点的に収集していく調査は、一旦確定した質問内容や調査対象者は基本変わらないため、継続的にデータを収集するフローを構築しやすく、内製化がしやすい調査といえます。
  • テンプレート化できる調査:商品や広告コンセプトの受容性に関する調査や広告キャンペーン後のブランドリフト調査など、最小限の修正(例:商品・広告コンセプトや広告クリエイティブ部分)だけで毎回同じ質問を聞くテンプレート化しやすい調査といえます。この種の調査もフローをシステムで確立しやすく、内製化しやすいといえます。(参照:グローバルコンセプトテスト
  • タイムリーなアクションが求められる調査 : 顧客や従業員に対するアンケートなど、アンケートの結果を元にしたアクションにタイムリーさが求められる調査です。このタイプの調査は、外部委託ではなく、継続的にデータを収集し、アクションポイントがすぐ理解できるようなデータの視覚化やアクションを行うためのシステム(例えば、対象者に連絡するメールシステム)との連携し、タイムリーなアクションに直結するフローを内製化することで、アクションへの効果を最大化することができます。

上記の5つの特徴を持った調査タイプとして、認知度などのマーケテイングKPIを定点的に把握するためのトラッキング調査や、顧客体験(CX)や従業員体験(EX)などを継続的に把握するためのエクスペリエンス系の調査や、ポストCookieを見据えたデジタルマーケティングで注目されるゼロパーティデータを構築するためのアンケートが当てはまります。

内製化をデータの民主化につなげる

調査プロジェクトには、ある特定のグループ(例えば、インサイトチーム)のみがデータを利用する調査から、一部に留まらず、各部署や本社/支社(海外を含む)を横断して、データの価値を享受することができる包括的な価値を持つ調査があります。後者、例えば顧客の満足度を把握することを目的とした調査は、顧客体験(CX)の改善施策を構築するCS推進室のみに限定されるべきではないと考えます。営業やマーケティング、経営企画など、他の部署にとっても、価値の高い顧客の声(ニーズ)となり、効率的にデータを共有していくフローが必要となります。但し、必ずしもデータを共有される側が、市場調査や数字に詳しいわけではないため、調査結果(しいては、アクションポイント)をわかりやすく視覚化して共有するフローを内製化し、専門性の有無を問わずデータの価値を享受することができる環境(=データの民主化)に繋げる必要があります。

クライアントが求めるもの、それは内製化+α

クライアントの調査プロジェクトを内製化する仕組みを構築する。これはクライアントが抱えている課題を解決するソリューションになることは間違いないでしょう。その一方で、内製化のみではクライアントのニーズを全て答えることはできません。内製化の先に「結果を解決(アクション)に繋げるための仕組みを構築」する必要性があり、この部分に対する市場調査会社への期待は大きいというクライアントの声が本レポートでも取り上げられています。弊社は調査プロジェクトの内製化を徐々に拡張しながら、クライアント独自のプラットフォームを構築し、さらに「プラットフォーム+α」として、アクションへのつなげる仕組みを提案するサービスを、各分野の強みを持つ自社のコンサルタントチーム、あるいはパートナー企業(Syno Cloud Partners)」と共に提供しています。今後さらに加速していく内製化の動きは、単に外部委託のシェアをある一定のレベルまで下げるといったことを意味するものではないと考えます。現状の調査プロジェクトの仕組みや課題を見直し、自社で内製化できる部分と、外部委託するべき部分を見極める必要があります。そして、より少ない資源で多くの成果を達成するために、内製化の価値を最大限引き出すことができる「+α」のサービスを提供することができるパートナー。これこそが、クライアントが外部に求めている価値ではないでしょうか?